いかにしてユールマルはその桿を無くしたのか

 

 ある日のことだ。ユールマルが身支度してると、ズボンの中に何やら珍妙なものがあるのに気が付いた。それは桿で、ユールマルは大層気に入った。長く、硬く、握り締めてみるに正しく自分にピッタリだ、とそう思ったものだった。。それはもう嬉しかったので、その日一日はほとんど表に出ないで過ごしたほどだ。しかしとうとう桿をいじるのにも飽きてきて、これを使って何かお役に立てないものかと探し始めた。

 まずは戦士たちが武器の訓練をする助けに使おうとしたのだが、エルマルにそいつを楯で打たれて、ユールマルはあっという間に萎えてしまった。おまけに戦士たちは笑い出し、オレたちの剣ほど逸物じゃあないんだなと言われる始末。

 お次はバーンターが畑を耕す助けに使おうとしたのだが、一層桿の先っちょを傷めてしまった。おまけに満足いく畝を作るほどには、実のとこ桿はそんなに大きくなかった。

 最後は宴会の広間のシチュー鍋をかき回すのに使ってみたのだが、シチューは熱くて桿は火傷をしてしまう。おまけにユールマルの桿がシチューを不味くしたのだと、みんな文句を言い立てた。なのでオーランスはユールマルの頭をポカリと殴り、寒中表に追い立てた。

 ユールマルは桿を役立てようとすると、嫌な目に会うのだと考えた。だけどそれでも一人遊びには飽きていた。だから一緒に遊んでくれる人を探しに出かけた。

 先ずはヴォーリアへご開帳におよんでみせた。「あたしの桿で遊びたかぁないですかい?」と。しかしヴォーリアはまったく興味を示さなかった。それどころか大声で悲鳴を上げたほどだった。何しろ何だろうと思ったものが、例のおぞましい桿だったのだから。

 ヴィンガがヴォーリアの叫びを聞きとめて、何の騒ぎかと確かめに来た。彼女はユールマルのことを好いていなかったのだけれども、ユールマルは彼女のことを気に入っていた。彼は桿をヴィンガに見せてみた。「あたしの桿で遊びたかぁないですかい?」と。しかしヴィンガは全然見向きもしなかった。それどころか手ひどく急所を殴ったほどだった。ユールマルは座り込んで、泣き出した。「あたしの桿に興味をもってくれる人なんていやしないんだ!」と嘆いた。「ずうっと1人で遊ばにゃあならんのですか!」

 ヴィンガは笑みを浮かべながら、ユールマルを見やった。哀れんでいるのだと思わせようと騙そうとした。「いいか、ユールマル」彼女は言った。「その桿で喜んで遊びそうな奴を知ってるよ。ああ、だけどなぁ、お前が本気で遊びたがってるのか解らんからなぁ」ユールマルは心躍らせた。「ほ、本気ですって」と、叫びをあげた。「本気でそのお友達に会いたいんですよ。その娘さんってのはリダルダですかい? あたしは前からあの娘が好きでね、彼女だったら喜んで、どの馬よりもあたしの桿にまたがりたがるはずですよ!」しかしヴィンガは、リダルダじゃあないんだと言った。「多分、会わないのがお互い一番いいんじゃないか」と彼女。「彼女好みのお遊びを、お前が気に入るかは解らんし」ヴィンガは立ち去ろうとした。

 しかしそれでもあきらめず、ユールマルは彼女を追いかけた。「本気でそのお友達に会いたいんですよ」と彼。「その娘さんってのはロイティナですかい? あたしは前からあの娘が好きでね、桿を使った新作の素敵な舞をご披露できると請け負いますよ」しかしヴィンガは、ロイティナじゃあないんだと言った。「多分、会わないのがお互い一番いいんじゃないか」と彼女。「彼女好みのお遊びを、お前が気に入るかは解らんし」

 しかしそれでもまだあきらめず、ユールマルは彼女をまだ追いかけた。「本気でそのお友達に会いたいんですよ」と彼。「その娘さんってのは……」ユールマルは言葉を止めた。というのもヴィンガは足を止めていて、彼がそのまま歩くがままにさせており、その行く先の大地には暗い割れ目が開いていたのだ。不意にかなり嫌な予感が走った。

 ヴィンガは笑みを浮かべたが、今度ばかりはユールマルでもこれを哀れみだとは思わなかった。「正解、バービスター・ゴアだ」そしてまさにその瞬間、“大地の復讐者”自身が飛び出して、その斧でユールマルの桿を切り落とした。そしてそれを拾い上げ高らかに笑いを上げて、家の戸口の上にぶら下げた。

 ユールマルは嘆き悲しみ、表に駆けだした。ヴィンガに、あたしの願いと全然違うじゃないですかと文句を言った。しかしヴィンガはこう言った。「警告はしたぞ。なのにお前が承知したんだろうが。お前が自分ではめたんだ、お前好みじゃないお遊びをしちまうように。事これについちゃ、オレは悪くないからな」

 こうしてユールマルは我が身を嘆いた。「あたしのことをトリックスターと、みんながいうのは不思議なものか」と叫声一唱。「自分だって騙すんだから!」

この文章について

 原文:How Eurmal Lost His Stick(http://www.ellechino.demon.co.uk/Myths/loststick.htm)
 著者:Bruce Ferrie(bruce@ellechino.demon.co.uk)
 翻訳者:鮎方髙明(ayukata@dunharrow.org)

 この神話はBruce Ferrie氏が作成した物を、作者本人から許可を受け、鮎方髙明が翻訳した物です。
 これはグローランサ・ファンによる創作物であり、公式版ではありません。各人の選択において使用して下さい。この文章により何らかの害を受けたとしても、著者並びに翻訳者は関知いたしません。この文章は、非営利目的においてのみ、複製が許可されます。
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